及川徹と岩泉一に関する一考察

漫画『ハイキュー!!』の登場人物である青葉城西高校の及川徹と岩泉一に関して考えたことや思ったことをまとめておくブログです。

阿吽考察 岩泉一の成り立ち

 本題に入る前に、これからの話の前提として、岩泉一というキャラクターの作られ方を考えたいと思う。

 岩泉の初登場は2巻である。しかしこの烏野と青葉城西との練習試合では、主に影山と金田一の因縁と及川の登場とにスポットが当てられ、岩泉は名前があるだけの、ほとんどモブキャラクターだったと言っても良いと思う。とはいえ、おそらくこの時点で定まっていただろう設定もある。


 ひとつは副主将という事である。1、2、3のビブスを岩泉、松川、花巻の3年生がつけており、松川と花巻はユニフォームと同じナンバーを着けていた事を考えると、1番の岩泉は主将及川不在時に代理を務めていたと推察できるためである。実際に金田一への声掛けなど、他の3年生よりは一歩前面に出ている事もこの推察を裏付けているように思う。

 ふたつ目に北川第一出身者であるという事である。これは「ホントに影山だ」と影山を以前から知っているような口振りから伺える。また、そこから必然的に少なくとも及川と北川第一時代からの6年間を一緒に過ごしている事も決まってくる。2巻16話において、及川と岩泉が気のおけない間柄でありそうな描写となっているのも、このあたりから来ているのかもしれない。とはいえ、この時点では「北川第一の選手の大部分が進む高校」という設定を反映したキャラクター程度の印象であり、及川と長い付き合いがあるという側面については、さほど重視されていないと感じられる。

 さて、このように2巻時点での岩泉については、考えてみても決まっていたと思われるのはせいぜいこのふたつ程度で、金田一には及ばないキャラクターの立ち方であったと思う。岩泉をピックアップしようという意図も感じられない。
 実際に「少年ジャンプNEXT!2012AUTUMN」付録のコミックスカバーでは、日向と影山、孤爪と黒尾という定番のコンビに対して青葉城西からは及川と金田一の2人が描かれている。この付録がついた号は時期的には3巻と4巻の間に発売されたものになるが、今や青葉城西関連のグッズが出るとなれば、大体は及川単体または及川と岩泉のセットである事を考えると、練習試合までの岩泉とIHからの岩泉との扱いには大きく差があると考えて良いだろう。

 つまり、2巻の段階ではまだ及川の相棒とも言えるような、及川の物語においてある程度重要な役割を担うキャラクターとしては描かれていなかったという事だ。

 それでは岩泉のキャラクターがいつ頃定まってきたかという事だが、練習試合からIH予選にかけて及川の過去を構想する内に定まってきたものと思われる。
 その根拠としたいのが5巻に収録された岩泉のプロフィールに記載されている誕生日とパラメータである。

 まず誕生日について見ていきたい。『ハイキュー!!』のキャラクターの誕生日はコンビと思しき2人の間で対になっているものがある。たとえば日向の6月21日は「夏至」であり、影山の12月22日は「冬至」である。青根の8月13日は「ベルリンの壁が建設された日」であり、二口の11月10日は「ベルリンの壁が崩壊した日」である。各々のイメージに沿って対となる日付を選択したり、あるいは鉄壁というテーマに沿ってベルリンの壁に纏わる日付を選択したりしている。
 そんな中、及川と岩泉も対となる誕生日を持っている。及川の7月20日は「アレクサンドロス大王の誕生日」であり、岩泉の6月10日は「アレクサンドロス大王の命日」である。ここに明確に及川と岩泉をコンビにしようという意図が感じられる。

 またパラメータについて、5巻の時点で岩泉のパラメータが結構な高さを持つ事に驚いた人もいたのではないだろうか。5巻の時点での岩泉のバレーの腕前は2巻の烏野との練習試合でしか見る事ができない。練習試合での岩泉といえば、変人速攻に翻弄され、影山と月島の張り合いブロックにドシャットされ、言うなれば良いとこナシである。その岩泉のパラメータは合計値で23ポイント、この時点では影山、及川に次いで西谷と並ぶ第3位の高さを持っていた。これまでの描写と結び付かないようなパラメータが設定されたのは、おそらく及川との対等さを担保するためだろうと思われる。ここにもまた、及川と岩泉をコンビにする計画が垣間見える。

 以上から、女子にかまけている及川を連れ戻す役を与えられた事も考えれば、IHが始まる頃までには岩泉を及川の相棒として据える事が定まってきていたのだろう。

 さて、ここで留意したいのは岩泉のキャラクターの作られ方である。最初はモブにも等しくピックアップする意図もなかったキャラクターを及川の相棒として作り込んでいった。そこには及川の物語の中でその役割が必要になってきたからという意図が込められているように思う。岩泉のキャラクターを立てたかったわけではなく、及川の必要に応じてキャラクターが立つ事になったのだ。
 その根拠としては、岩泉は基本的に及川が絡む場面でしか目立たない事、彼自身に関する描写はバレーボールの技術的な面でも、心理的な面でもほとんどされない事などが挙げられるが、もう一度思い出してもらいたいのが岩泉の誕生日である。
 岩泉の誕生日は「アレクサンドロス大王の命日」であり、及川の「アレクサンドロス大王の誕生日」と対になっていると述べた。このコンビを繋ぐテーマと なっている「アレクサンドロス大王」だが、「大王様」といえば、日向が王様である影山の先輩だからと及川に付けた呼称であり、そこに岩泉は関与しないはずである。関与しないにも関わらず「アレクサンドロス大王」が起点となっている誕生日を与えられてしまっている。「夏至」も「冬至」も「鉄壁」も、それぞれのキャラクター個人が持つ性質に合わせて設定されているが、岩泉の「アレクサンドロス大王の命日」は岩泉個人に属する性質から導き出されたものではない。 「及川とコンビだから」という理由しかそこにはなさそうなのである。岩泉は岩泉個人としてキャラクターを立てられたわけではなく、あくまで及川の相棒としてキャラクターが立てられた事がより補強されるものだと思う。

 岩泉には高いパラメータも設定されたが、「青城=及川」という認識を覆すには至らなかっただろう。精々及川で霞んでいるがレベルが高い程度であり、名前が知れているわけでもなく、牛島からは「及川以外弱い」と一刀両断されている。岩泉一とはおそらくバレーを語る漫画に於いてバレーの為に生まれてきたキャラクターではないのだろうと思う。岩泉一は及川徹の為に用意されたキャラクターなのだ。


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