及川徹と岩泉一に関する一考察

漫画『ハイキュー!!』の登場人物である青葉城西高校の及川徹と岩泉一に関して考えたことや思ったことをまとめておくブログです。

ハイキュー!! 134話 感想

及川徹のための及川徹

岩ちゃんは及川さんのために作られたキャラだと思う、ということは常々言っているけれど、その一方で、及川さんと彼が率いる青城は、影山の成長の為に設定されたキャラ・チームという側面があると思っている。
及川さんは総合力No.1セッターであり、セッターとして天才ではないが影山が持っていないものを持っている。影山は北一時代に金田一・国見と上手くいかず、及川さんは青城に入った彼らをきちんと使いこなしているという綺麗な対比がある。
影山がこれを倒す事が出来れば、わかりやすく過去のトラウマも含めて乗り越え、成長したという証になるだろう。


だから、及川さんと彼が率いる青城は生まれながらにして敗北を運命づけられていると思っていた。
主人公の1人である影山は物語的に彼らに勝たなければならないからだ。
もちろん他のライバル校も勝ちっぱなしではいけないだろうけど、それとは別枠で、そのライバルに打ち勝つことが烏野・影山にとって非常に意義深いものになるという点において青城は特異だと思う。

そんな運命の元に「負けるのかもしれないね」なんて儚い顔で言われた日には、及川さんはいつか前に進めなくなってしまうのかもしれない、彼はあんなに入れ込んだバレーをやっていけなくなってしまうのかもしれない、と悲嘆に暮れていた。

のだけども。

今週で改めて及川さんは真っ直ぐ前に進んでいけそうだな、どこまでもバレーやっていけそうだなと思った。
それを感じたのが「あ、キタ」の一言・一コマ。

IHの時には「あ、キタ」なんて感覚を追い求める雰囲気ではなかったと思う。

高3という最終学年になってからの初めての公式戦。
ウシワカを公式戦で破るチャンスもあと2回。
更にはかつて自分を脅かす存在になると感じた後輩が敵として同じ舞台に現れる。
中学の試合を視察して、こいつァダメな王様だって思ったかもしれないけど、練習試合の時からめちゃくちゃ意識はしてるから、警戒や危機感はあったと思う。

だから、影山をこてんぱんにのして、ウシワカに勝たなければというある種の強迫観念のようなものが出て、浮き足立っていたというか、岩ちゃんに指摘された通り、目の前の試合、目の前の一球に集中しきれなかったところがあるんじゃないかと思う。

しかしそれはIHの走馬灯サーブで払拭された。
あの走馬灯は2つのことを表していたと思う。

1.今まで積み重ねてきた練習量
2.及川徹の原点・初心

1は見たままだけど、2については、走馬灯のスタート時点がTVの前で試合を見てサービスエースに興奮しているシーンだったことから、原点や初心を描こうとしたんだと思っている。
ただ練習量を示したいだけならいらない描写だ。

日々の研鑽を思い出し、初心に戻って雑念に支配されずにボールと向き合って、「今日最高のサーブ」が打てたんだと思う。

それを踏まえて今週の「あ、キタ」を見る。
誌面下に向かって濃くなっていくベタは目の前のサーブに没入していく様子だと思う。
多分感覚が研ぎ澄まされている中で、本当に、サーブだけに、ボールだけに集中している。
サーブの練習を始めた少年時代はこの「あ、キタ」のような感覚を追っていたんだと思う。
妄想だけど、岩ちゃんがバレーボールに触り始めた頃の及川さんは目の前の感覚に、できるようになることに夢中な表情をしていると思う。でも、影山が現れた時にはがむしゃらになってそんな感覚を追う余裕がなくなっているように見える。ウシワカに勝てないという事も含め、この時にはコンプレックスという雑念が生まれていただろう。
しかしIHの走馬灯サーブを経て、春高では余裕が生まれ、雑念に至ってはIHよりも更に薄くなっているように見える。

もちろん及川さんだから、影山を完膚なきまでに叩きのめすとか、ウシワカ絶対に倒すとか、そういう強い意志はあると思う。
でもそれが雑念とならずに、サーブが今までよりうまく打てそうっていう感覚を追い求められているんだから、IHの時の天才コンプレックスはもう払拭できたんではないかなと思う。及川さんは影山とかウシワカとか関係なく自分のためのバレーをしている。
だから、もしこの瞬間影山に追いつかれて追い抜かれても、ウシワカを今越えられなくても、及川さんは終わらずに進んでいけるんじゃないかなと思う。

合宿中に大地さんが「才能の限界なんてわかんない」といった。
確かにそうかもしれないけど、もし及川さんだったらそう言えるのかな?と少し心配だった。
「負けるのかもしれないね」は及川さんが自分の限界を冷静に見つめた結果発された言葉なのかもしれないと考えたことがあるからだ。
でもきっと今の及川さんなら限界なんてわからないじゃんって不敵に言ってくれる気がする。
人は他人と比べたりして原点を見失ってしまわない限り上を目指せると思う。及川さんは原点を取り戻したんだと思うからきっともう大丈夫。

春高で、及川さんは未完成なんだと思った。青城にも伸び代があるんだと思った。
それがすごくすごくすごくすっっっごく嬉しい。
物語のために青城は負けるのだって少なからず思ってたけどやめようと思う。
青城はたぶんもう烏野のためのものさしではない。烏野がどうとか関係なくて彼らは彼らの文脈で生き始めてると思う。

もちろん、影山の成長の証になるという役目は残っているだろう。
けど、それだけではなくなったと思う。
及川さんはその機能から脱却してただの及川徹になったんだと思う。
春高はきっと及川徹のための及川徹だ。