阿吽考察 終わりと始まり
ここまで長く話をしてきたが、あのトスは及川の物語の達成であり、岩泉の役割の貫徹であり、及川と岩泉の集大成だった。そして登場してからここに至るまで崩されなかった2人の対等と非対等を示したものでもあった。
つまり『ハイキュー!!』における及川と岩泉がすべて集約されたものだったと思う。あの一球はここまでのすべての及川徹と岩泉一が詰め込まれていた、本当に洗練されて美しいものだったと思う。
そんなすべてに終止符を打つようなトスではあったが、同時にこれは始まりでもあると思う。
影の人物との会話から推察する限り、及川は進路に悩んでいたようだった。バレーボールを本格的に続けるべきかどうか迷っていたのだろう。春高以降の及川はどこか吹っ切れた風ではあったから、影の人物との会話でだいぶ踏ん切りはついていたのだろうが、あのトスが及川の決心を固めた事は間違いないと思う。及川は牛島の前で自分の信じるバレーで進み続ける事を告げた。あのトスは、部活ではなく一個のバレーボール選手としての及川徹の始まりであっただろう。
一方の岩泉の方については、あまり明確にならないまま終わったが、「この先チームが変わっても」「でも戦う時は倒す」という番外編の言葉からすれば、岩泉もまだ終わるつもりはないのだろうと思う。あるいはこの春高の最後に打ちきれなかった後悔は、「岩泉の物語」の鍵のひとつとなっていくのかもしれない。
及川と岩泉の高校時代は終わった。しかしそれは、彼らのいくつもある物語や役割の内の『ハイキュー!!』という作品の枠内でクローズアップされたひとつが終わったに過ぎないのだと思う。そうした広がりを感じさせるところもまた『ハイキュー!!』という作品の魅力である。
彼らの未来に祝福があらん事を祈り、筆を置きたいと思う。
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