本筋外の描写にみる岩泉
岩泉一というキャラクターは本筋において、及川に絡むこと以外さほど大きな特色を持っていなかった。
その一方で、本筋外の描写はかなり充実していたように思う。
今回はその本筋外の描写から汲み取れる岩泉のキャラクターについて備忘録的にまとめておきたくなったので、まとめてみようと思う。
寒さに強い
「夏は暑いし冬は寒いこと」とは孤爪の最近の悩みである。暑さにも寒さにも弱いのはいかにも孤爪らしいが、こういった悩みでもなければキャラクターの体感温度など主題になるような話でもなく、そのキャラクターが暑さや寒さに対してどう感じているかなんていうことはそう知り得ることでもない。
ところが、岩泉はおそらく「寒さに強い」または「暑がり」と言えてしまいそうなのである。
それが一番顕著にわかるのは、42巻372話で小学生時代に日本VSアルゼンチンの試合を見に行く及川の回想だ。
回想の1コマ目の及川や背景を見てみると、皆長袖であり、なんなら上着を着ていると思われる人物もいる。季節は明示されていないがそれなりに涼しい時期なのだろうと推測できる。だというのに岩泉は1人半袖半ズボンといういでたちなのである。
また、35巻巻末のこどもの日番外編でも、おそらく5月5日に小学2年生の西谷は長袖、木兎は腕まくり、岩泉は半袖である。
もっとも後述するが、岩泉は小学生男子の鑑のようなところがあるので、子供時代はいわゆる「年中半袖半ズボン」少年だったのかもしれない。
しかし、高校生時代においても、どうやら周囲とややばかり季節感がずれているような描写がある。
それが、『れっつ!ハイキュー!?』59話の宣伝イラストである。
レツ先生による「ハイキュー!!」公式スピンオフ4コマ「れっつ!ハイキュー!?」ジャンプ+にて大好評連載中!いつもおかしくて面白いんですが、今週は特に古舘先生もドツボにハマった傑作回だったので、皆様是非! pic.twitter.com/U7Qul5igiO
— ハイキュー!!.com (@haikyu_com) 2015年11月7日
この59話は11月上旬にジャンプ+に公開されており、このイラストも当然その時の季節を念頭に描かれているのだろうと思う。
実際松川は長袖のシャツを着ているし、花巻はブレザーも着ていそうだ。ところがスマホを力強く握りしめる岩泉は、長袖こそ着ているものの腕まくりなのである。
こうした描写が重なるという事は、明文化はされていないが、おそらく岩泉は「寒さに強い」または「暑がり」なのだろうと思うのだ。
我が儘
岩泉がワガママというと「ん?」と引っかかる人も多いと思う。しかし私は彼をなかなかのワガママだと思うし、そんなところがめちゃくちゃ好きだ。印象的にはカタカナの「ワガママ」よりは漢字の「我が儘」なので、以降「我が儘」で書いていきたい。
ステレオタイプとしての話だが、一人っ子はしばしば我が儘と評される。『ハイキュー!!ファイナルガイドブック 排球極!』(以下『排球極!』)で兄弟構成を一人っ子と明かされた岩泉だが、それを見た時私は「そうだと思ってたよ」と内心ひとりごちた。このブログではそれを自分本位という言い方で表現してきたが、要は自分のやりたいようにやるという我が儘な面があるのである。
ただ岩泉の場合、それによってあまり周囲が振り回されることもなく、加えてわかりやすく面倒な及川の世話係のようなポジションになっているがために、その印象は薄いだろうとも思う。
では私が岩泉を我が儘だと感じた片鱗が本筋(本筋部分については「自分本位」という言葉で書いた「怒る岩泉」を参照されたい)以外にどこにあるのかというと、劇場版『才能とセンス』の宣伝イラストだ。
劇場版総集編『ハイキュー!! 才能とセンス』古舘先生描きおろし応援イラスト2枚目です!
— ハイキュー!!.com (@haikyu_com) 2017年9月22日
既にご覧になった方も未だの方も、この週末に宜しければぜひお願いいたします!https://t.co/sNDjTFAynh pic.twitter.com/icsTOwCs79
キャラメルポップコーンを持つ花巻と塩バターポップコーンを持つ松川を両サイドに侍らせて、自分は何も持たずに食べたい方を好きなだけ食べる岩泉の図である。松川と花巻も全く問題にしていないため極自然なことに見えてしまうのだが、誰にでもできる事かというとそんなことはないだろう。
私はこのある意味自然に甘やかされているとも言える構図を見て、おそらく松川と花巻には兄弟姉妹がいるのだろうし、岩泉は一人っ子なのだろうなと感じた次第だ。
また、前段でも1シーンを挙げた42巻372話で及川と折半して買った色紙に独断で自分宛のサインをもらい、後から及川の名前を書き足してもらうことで50円分の義理を果たしたと言わんばかりに悪びれもしない様子もなかなかに自分勝手だろう。
他にも15巻127話で入畑に嫌味なく「(及川のトスが)お気に召さなかった」と言われてみたり、これも前段で挙げたイラストになるが、『れっつ!ハイキュー!?』59話の宣伝で花巻に「ご乱心」と言われてみたりと、そこはかとないお殿様のような扱われ方もこの我が儘さに起因するのではないかと感じるのである。
ボキャブラリー貧困
岩泉は所謂ボキャ貧である(もう死語かもしれないが)。
直接貧困とは言われていないが暗に孤爪にはそう思われていることが、27巻の宣伝イラストでは描かれている。
そしてそして!古舘先生描きおろし宣伝イラスト第3段をお届けします!!本日発売「ハイキュー!!」27巻、宜しくお願い致します!!! pic.twitter.com/I96t2SVAdc
— ハイキュー!!.com (@haikyu_com) 2017年8月4日
また、45巻395話でも牛島のスパイクに対しての感想と展望が「ドガァン!」と「ドバギャアン!!!」であり、言葉が足りているとは到底言い難い。
『排球極!』によれば県内トップクラスの進学校である青葉城西高校に通い、大学進学も果たした岩泉であるが、バレー脳の話とはいえパラメータ上の頭脳も3で、7巻55話では及川に「足りない頭」と言われ、そんなに頭が良いわけではないように思う。
スポーツ科学は理系分野だから文系的なボキャ貧が関係ないのではないかというとおそらくそういう訳でもなく、どちらかといえば実践的な勘の良さと気合いと熱意と根性で代表帯同トレーナーへの道を切り開いていったんだろうなあという気がするのである。
スポーツ万能
『排球極!』の「古舘春一先生×HAIキュー!!TALK」において各キャラクターの初期進路案が示された。示されたとはいえ画像は小さく荒く、非常に読み取りづらいものであったが、岩泉には競技のプロではなくはっきりと進路が定まっていないキャラクターの一人として、おそらく「体育教師」「フィジカルトレーナー」の案があったようだ。
『排球極!』発売前に書いた「岩泉一の物語」では、コンディショニング(フィジカル)トレーナーではなくアスレティックトレーナーであることが不思議だったと書いたが、おそらくその直感もそう間違ってはいなかったということだと思う。
この記事で言ってきたことにはなるが、15巻132話で京谷との野球、マラソン、腕相撲勝負に全て勝利したことが描かれていたり、パラメータはパワー・スタミナ・スピード・バネのバレーというよりは身体能力的な部分が高かったりと所謂スポーツ万能な一面が描かれてきた。
特に腕相撲については花巻が「腕相撲でどうしても岩泉に勝てない」ことを最近の悩みにしていたり、新春アームレスリング大会3年の部でも並み居るパワー自慢たちを抑えてチャンピョンの座におさまったりしている。
遅ればせながら、皆さま明けましておめでとうございます!お正月はいかがお過ごしでしょうか。
— ハイキュー!!.com (@haikyu_com) 2019年1月3日
古舘先生から、新年のご挨拶が届きました!2019年も「ハイキュー!!」は、アームレスリング組に負けず劣らず全力で頑張ってまいりますので、なにとぞよろしくお願い致します! pic.twitter.com/MHgNkL06vM
体を動かす事につけて万能と言っていい類である事、また、本質を掴みはっきりと伝えられる岩泉は運動的な指導を行う職業が想像されたのかもしれない。
そうなると、やはり最終話の岩泉にアスレティックトレーナーの肩書きが与えられたのは、あの場で帯同トレーナーとして及川と対峙するためという側面が強く、性質としてはコンディショニング(フィジカル)トレーナーに近くなるのではないだろうかと改めて感じた。
喧嘩に強い
これもまた『排球極!』の岩泉のプロフィールページからなのだが、古舘先生によれば「35歳でキャラクター全員で喧嘩して一番強いのはこの人か澤村か、縁下」ということなのである。
岩泉については、及川に関することは絶対に間違えないというメタ的な性質から、前述してきたスポーツ万能のような絶対感が付与されてしまったと考えているが、その絶対感がここにも影響しているのではないかと思う。澤村と縁下については、本編中ではまだそこまでの絶対感はないが、警察官と理学療法士という進路を見るに経験を積んだ35歳になるころには相当な絶対感を持っていそうだと思う。
しかし絶対感という言葉でまとめてしまうのもつまらないので35歳の彼らの喧嘩に強い共通点はなんだろうかと少し考えてみた。
※前提に全部「相手が誰でも」が入る
・怯まない
・急所を的確に捉える
・容赦しない
・筋が通っている
・対立できる
・真っ向勝負を受けてたてる
・度は超さない
喧嘩がどういった性質のものかはわからないが、この3人は喧嘩の落とし処も含めて全キャラクター中最強だろうなあと思うし、またこの3人の優劣は決まらないのだろうと思う。ただ、数いるキャラクターの中での最強の一角に挙げられたのは、とても大きな特徴なのではないだろうか。
怪獣(ゴジラ)好き
トレードマークとなるほどに、岩泉と怪獣については描かれてきた。
初出は13巻のカバー裏の登下校風景だ。彼の持つエナメルバッグは大きな怪獣のステッカーでデコられている上にキーホルダーまでついている。
またこの巻の著者コメントでは古舘先生自身の怪獣への思い入れも語られており、両者には少からず繋がりがあるように思う。
次に岩泉と怪獣の繋がりが描かれたのは、先ほどから紹介している『れっつ!ハイキュー!?』の3巻に収録されている59話がジャンプ+に掲載された時だった。
この59話は伊達工に迷い混んだ日向・影山・牛島を白鳥沢まで送り届けるため、伊達工メンバーが開発したメカで地下を進む道中でチテゴンという怪獣と出くわし、怪獣との戦いを繰り広げるという回だった。
岩泉はまったく絡まない話のだが、岩泉が「伊達工に入ろう」とご乱心するイラストが突如ツイッターにアップされたのである。
古舘先生いわく「面白すぎたので宣伝せざるをえない」ということだが、その面白さを伝えるために古舘先生の代弁者として出てきたのが岩泉だったのだ。
手にするスマートフォンのケースはしっかりと怪獣仕様で、これは同じものかはさておき45巻395話の大学2年生時点でも継続使用中である。
岩泉もおそらく伊達工のメカと怪獣との戦いにテンションが上がってご乱心したのだろう。
13巻で小さく描かれた怪獣と岩泉の繋がりだが、その繋がりはここで読者の目にも確固たるものになった。
そして今号「ハイキュー!!」はポスター巻頭カラー!ポスターではなんと「シン・ゴジラ」との驚愕コラボが!!古舘先生からのイラストと合わせ是非本誌をお確かめください!!※今週末ジャンプフェスタ東宝さんブースでもコラボポスター展示予定です pic.twitter.com/KqnCjVWTON
— ハイキュー!!.com (@haikyu_com) 2016年12月13日
演劇「ハイキュー‼︎の日」イベント無事終了しました!皆さまありがとうございました!
— ハイキュー!!.com (@haikyu_com) 2018年8月19日
イベント中にも登場した古舘先生描きおろし「ハイキュー‼︎の日」イラストはこちらです!
これからもハイキュー‼︎を宜しくお願い致します‼︎#ハイキューの日 pic.twitter.com/bGkFnXYDlz
そして映画風ポスターを描き続けてきた古舘先生が、公式に『シン・ゴジラ』の宣伝ポスターを描かれた時、岩泉はその流れで当然のように登場した。
ここでもやはり巨大なものにテンションが上がっている様子が描かれている。
また、「我が儘」の項目で紹介済の劇場版『才能とセンス』の宣伝に出てくる岩泉や、42巻372話の日本VSアルゼンチン戦の回想に出てくる小学生の岩泉もこれまたデカデカと怪獣がプリントされたTシャツを着ているし、ハイキューの日には「シン・ゴジラ」と書かれているとみられるTシャツまで着ている。
『排球極!』のあとがきでは、各キャラクターのプロフィールに「好きな映画」の項目を入れたかったと書かれていたが、0.5秒ほど岩泉の好きな映画を教えてほしいと考えてから、教えてもらうまでもなかったとオチがついた。
このように、おそらくだが古舘先生の怪獣好きな部分が岩泉に仮託され、岩泉は筋金入りの怪獣好きになった。後述するが、それは岩泉の少年性とマッチしたのではないかと思う。
とはいえ、こんな一面もある意味岩泉らしい。
年末に地上波で『シン・ゴジラ』が放送された2018年の年越しイラストでは、おそらく『シン・ゴジラ』を見ながら大掃除をサボる及川と黒尾に対し、無言の制裁をする大掃除中の岩泉と澤村が描かれている。
皆様、大晦日はいかがお過ごしでしょうか。今年も古舘先生から年末のご挨拶が届きました!
— ハイキュー!!.com (@haikyu_com) 2018年12月31日
皆様の応援のおかげで、「ハイキュー!!」は2018年も走り抜くことができました!ありがとうございます!2019年も何卒よろしくお願い致します!皆様、良いお年をお迎えください‼︎ pic.twitter.com/DujxBZ8Zc7
筋金入りの怪獣好きではあるが、それを差し置いてもやるべきことはきっちりやるあたり、岩泉だなあと感じた。
少年性
さて、特にまとまりのないまま最後になるが最初の「寒さに強い」の項目や前段の「怪獣」の項目でも触れた岩泉の少年性についてである。
岩泉はステレオタイプな小学生男子像が基盤にあるのではないかという話だ。
もっとも主人公の日向をはじめとして、『ハイキュー!!』に登場する一定数のキャラクターたちはそういう側面を持っているのだが、岩泉は中でもそれが顕著なように思う。
その始まりはやはり8巻67話での及川の回想の端に登場する"王"タンクトップを着た"虫取"少年だろう。
それに加えて、16巻142話及びそのオマケで「俺が居ればお前は"最強"だ」という日向の言葉にそわっと反応してみたり、17巻の番外編で用いた「"ちょうスゲェ"セッター」という表現もどこか小学生の趣がある。
35巻巻末こどもの日番外編の"木の棒"は言うまでもないし、「寒さに強い」の項目で挙げた"半袖半ズボン"も所謂小学生男子あるあるだろう。
"怪獣"にテンションが上がってしまう気持ちを預ける素地がそこにはありそうだ。
岩泉は我が儘であろうと、ボキャブラリー貧困であろうと、怪獣グッズに身を囲まれていようと決して子供っぽいキャラクターではないのだが、彼のベースには結構な少年性が意識されているとみて良いと思うし、そのニュアンスが彼の魅力のひとつだなあと感じるのである。
その他備忘録
現状特に文字を割こうとは思わないけれど頭の片隅に残しておきたい事
・根性至上主義者(『れっつ!ハイキュー!?』3巻巻末)
・1に厳しい(819の日)
・名付けの由来は「常に挑戦するように」(排球極!)
「一」という名付けの意味としては一般的ではなく、物語内で重要な言葉のひとつである挑戦が使われているのが嬉しい
・制服のシャツイン、ジャージの前閉め
・北一時代はハジメと呼ばれていた?